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絵画を楽しむ ヴェネツィア絵画
ヴェネツィアの鳥瞰図
カナレットのヴェネツィア
文・写真/角井典子
魚のような形のヴェネツィア俯瞰地図(A)。びっしりと埋め尽くされたテラコッタの瓦屋根の間をぬって運河が流れている。ヴェネツィアに行ったことがある人なら、自分が泊まっていたホテルはどのあたりかなと、思わず探してみたくなるくらい詳しい描写だ。もう一方はカナレット描くサンマルコ広場の眺め(B)。金色のサン・マルコ寺院、カンパニーレ、ピアッツェッタの2本の柱の向こうに穏やかに反射光を投げかけるラグーナ、河岸にはゴンドラが繋がれているのが見える。ヴェネツィアに行ったことのない人でも「絵葉書で見た通りのヴェネツィアだな」と思うおなじみの眺め。でも、ちょっと待って。これらの絵はどちらも18世紀に描かれたもの。3百年ちかくも昔のヴェネツィアなのだ。
 
ヴェネツィアは、ラグーナに杭を打ち込んだ土台の上に造り上げられた人工島。空と海の間に浮いているようなその景観もさることながら、驚くことにヴェネツィアの町の構造は18世紀の頃とほとんど変わっていない。奇跡としかいいようのない希有な場所なのだ。カナレットやそれに続くグアルディなどの18世紀ヴェネツィア人画家たちが描いた写実的な風景画は、ヴェデゥータと呼ばれる独特のジャンルを形成していたという。写真がまだなかった頃のことだ、奇跡の海上都市ヴェネツィアを描いた絵は当時流行したグランドツアー(これも現在のパックツアーさながらの団体旅行)で訪れる外国人たちの目をひく、今でいう絵葉書や観光ポスターのようなものだったらしい。さらに、このヴェドゥータ画家たちはカプリッチョという、もうひとつ別の趣向の風景画も描いている。こちらは「気まぐれ」という名の通り、実際にはありえないような光景をまことしやかに描いた架空の風景画。日常的なヴェネツィアの景色に古代ローマの廃虚などを巧妙にはめ込み、非現実的な空間を描き出している。
ヴェネツィアの鳥瞰図
ヴェネツィアの鳥瞰図
サン・マルコ広場の眺望
サン・マルコ広場の眺望
写真
現実に存在しながらも、何処か架空の夢の中にあるような町ヴェネツィア。この町に生きたカナレットにとって虚実の入り交じった表現は、ごく自然なことだったのだろう。異国から押し寄せる観光客、カルナヴァレ、センサ、レデントーレの祭り、そしてレガッタ---。ヴェネツィアの住人は祝祭の舞台装置のなかに住んでいるようなもの。ここに暮らしながら、知らずしらずのうちに夢と現実を使い分けるすべを身につけていく。もちろん祭りの熱狂は今も変わらない。レガッタのパレードが大運河に姿を現わせば、ヴェネツィア人の誰もが「カナレットの絵のようだ」と誇らしげに口を揃える。ちなみにカナレットというのは通称で、本来の名前はアントニオ・カナル。父親も画家であったことから、区別するために「小さいほうのカナル」つまりカナレットと呼ばれていた。それにしても、その名がまさしくCANAL「運河」という意味だとは。 写真
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