緑豊かなピエモンテ州アスティは、ワインやスプマンテの産地として名高い。そのアスティの街から、さらに車で20分の山間に、コスティリオーレ・ダスティという小さな村がある。ICIF(Italian Culinary Institute for Foreigners/外国人のためのイタリア料理学校)がこの村に本部を移して早や4年。
  当校は、イタリア国外へ正しいイタリア料理文化を伝えるためのプロ養成を目的に、1991にトリノで設立された非営利団体だ。EU、ピエモンテ州政府、ロンバルジア州政府といった公の機関をはじめ、イタリアを代表するla Molisana、 Lavazza 、Riso Galloといった大手食料品メーカーのバックアップを得ている。シェフを目指す世界の若者を対象にした料理やワインの研修コースのほか、世界各地でのイベント開催や料理本の出版、Tシャツやキャップといったノベルティ・グッズの販売も行っている。
 ブドウ畑に囲まれた村落の、ひときわ高い場所に建つ中世のお城が、ICIF校舎だ。このお城、1000年も前に建てられたというだけあって、重厚な歴史の重みを感じさせる。日本の「学校」のイメージとは大違い。しかし、一歩中に入ると、そこは別 世界。ウルトラ・モダンな設備が整っている。

 まず、入り口近くの実習室。教壇にあたる位 置で講師が解説し、実演をしている。生徒たちは、4人1列でおのおのの電磁調理機と流しのついた調理台に向かいながら、講師の指示に従って作業を進める。後部からでも講師の手元がよく見えるよう、テレビモニタがいくつも設置されている。全6列で最高24人入る教室だが、調理のスペースはゆったり。お互いぶつかったりしないよう、余裕をもって設計されているのがいい。
 
  受け付けの手前を左へ入ると、パンやお菓子を焼くためのキッチンが。ちなみに、毎朝のパン焼きは、生徒たちが当番制で担当する。
  奥にあるキッチンは、生徒や講師、スタッフ陣の食事を用意するための場所。専属の若い女性シェフが毎日の献立を取り仕切っている。昼食・夕食は隣接する広々としたダイニングルームで。夕食は基本的にビュッフェスタイルだが、昼食時には生徒たちがもちまわりでサービスを行う。シェフたるもの、テーブル・セッティングやサービスの作法も学ぶべき、という考えから実践されているのだが、さらに、生徒たち自身が食事マナーを学ぶ場としても活用されている。これも授業の一環。
  このほか、語学や理論を学ぶための、いわゆる階段教室がひとつ。
 そして、忘れてならないのが、地下にあるワイン、オリーブオイル、チーズについての講義が行われる教室。ワインセラーも兼ねていて、城内のもと穀物倉庫を改装した部屋で、ひんやりとした石の冷たさが、ワインをほどよい温度に保っている。教室の左右の棚には膨大な量 のワインが収められ、各席に、ソムリエ協会認定のテイスティング用グラス3種、オリーブオイルのテイスティング用グラスなどが用意されている。机の上は、目隠しテスト用のグラス配置台、色を見るためのライト・ボックスとなっている。ソムリエの学校と言ってもおかしくないほどの充実ぶり。
 生徒たちは、本部から歩いて7、8分ほどの宿舎に滞在する。一見、修道院風のL字型の建物で、2ベッド・ルームが全14室。バス、シャワーは二人共有だが、洋服ダンス、勉強机もあるひとりぶんのスペースは、ホテル並みにゆったり。各部屋からバルコニーに出られるのもいい。朝食や生徒同士のパーティは1階の食堂で。
  村には、今や食通ならその名を知らぬ者はない高級リストランテ「グイド」があり、遠方から車を飛ばして訪れる客も後を断たないらしい。この店の厨房には、ICIFの卒業生である日本人が2人いることも記しておこう。その他には、国内の著名リストランテに商品を卸しているというレースや絨毯の店などがあるものの、落ち着いて料理に集中できる静かな環境である。 授業で使われる食材は、きわめて品質の高いものに限られ、ワインは各メーカーの協力で提供されている。それもこれも、「本物のイタリアの味を母国で伝えて欲しい」という一念から。いやはや、イタリア人は懐が深い。そして料理に対する思い入れが深い。海外で「和食」がブームとなって久しいが、日本でこのような学校開設が試みられたことがあったろうか? 「外国の和食はまずい、偽物だ」なんて文句を言う前に、ICIFのポリシーを見習いところである。