演出小林俊夫
5月のさわやかな風の中、我がルネサンス・クルーは、原田美枝子さんと共にローマ、フィレンツェのロケを行いました。絶好のロケ日和が連日続き、美枝子さんは終始ゴキゲン。そして美枝子さんの強靭な胃袋も、疲れを知らず終始ゴキゲン。いや〜、食べる、食べる。本当によく食べる。まさに「感動的食いっぷり」の美枝子さんにつられ(?)スタッフの胃袋もついつい膨張ぎみ。思うに大物女優になるための必須条件は「食べることにあり」と感じたロケでした。
撮影中の美枝子さんは黒澤明監督の愛弟子だけあって、妥協のない恐るべき女優でしたね。とにかく、次から次へと質問してくる美枝子さんにはこちらもタジタジでした。歴史のこと、美術のこと、芸術全般のこと。美枝子さんの知的欲求は貪欲で、あらゆる疑問をガツガツ「食べまくる」のです。しかしそれは緊張をはらんだ感じではなく、終始なごやかに進むのです。美枝子さんとの会話はまさに至福の空間での出来事でした。
想像してみてください。例えばフィレンツェの夕日に映えるレストランで、ほんのりとワイン色に染まった美枝子さんの口からでる夢のような言葉の数々を…。
「う〜ん。これは夢にちがいない。夢のなかのミューズが、愛と芸術についていま語っているんだ…」
どうですか。羨ましいでしょう。こんなえもいわれぬ体験が毎日つづいていたんです。
ダ・ヴィンチやラファエロ、ボッティチェッリ、フラ・アンジェルコ、フィリッポリッピ、ベルニーニ、ドナテッロ、カラヴァッジョ…などなど、貪欲に「食べまくった」疲れ知らずの美枝子さんの瞳はキラキラと宝石のような輝きをしていました。
さて、完成試写の日。朝、10時30分。笑顔で美枝子さんがやってきました。
「終了後に美枝子さんが、感想を言うかも知れませんので…」
マネージャーのその一言に、思わず「ドキッ!」。心臓が凍りつきました。自分の出演作は特に厳しく見る美枝子さんだということを私は知っておりましたので。
終了後、美枝子さんと中華料理店に入り、恐怖の一言を待っていたその恐るべき時。美枝子さんはそんな緊迫した状況を、知らないかのように話し始めました。
「いいじゃない。オモシロ〜い。いろいろな美術番組があるけど、歴史や作品のピックアップでまとめたものが多い。これは違うわよね。番組から作り手がなんとかミケランジェロの精神に近づきたい、近づきたい、といった熱い思いがストレートに伝わってくる。2回涙ぐんでしまった。システィーナ礼拝堂のシーンは感動したわ。ミケランジェロも喜んでくれると思う。家族と一緒に見るわ!子どもも喜ぶと思う。」
(やったね。スタッフの皆さん!と心の中でガッツポーズ)
雨の午後。美枝子さんは雑踏の中に消えていきました。
「ありがとう美枝子さん。またいつか、お会いしましょう…」
まるで、映画のラストシーン。最後に交わした握手のぬくもりをせつなく感じつつ、私の気分はすっかり「冬ソナ」のヨン様なのでした。
希望の都 パルマ物語 予告編

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