運転のレベルの問題もあるが、息子の保育園の夏休みも予定より数日早くなってしまい、教習所に通える時間を見つけられそうにないので、「もう当分行けないから9月に再開にしてくれ」と教習所に電話で頼んだところ、私の試験が7月31日であると告げられた。「すでに登録もしてあるんだよ。だからアキ、どうにかして誰かに子供を預けて教習所に通って今週末に試験を受けてよ!」と教官のエンツォ。気持ちはすっかり9月になっていたのに、急に7月!しかも試験日まで後5日しかない!動揺は隠せなかったが、すでに試験の登録も済ませているということだし、覚悟を決めるしかないのだ。
試験の週は日に2回レッスンをする生徒が多い。よくレッスンをさぼっていたロサーリアさえも、「今週は午前中と夜、毎日来るわ!」と張り切っていた。本当は私もそうしなくてはいけなかったのだが、息子を預けるのを義母や義姉に頼むのが遅れて、夜のレッスンは試験日2日前の木曜になってようやく行けることに。午前中と午後の2回なら子供を預けるのも問題はなかったのだが、19時スタートのレッスンとなるとそうもいかない。でも担当教官から試験前に他の教官のレッスンを受けておくことを勧められ、行ってみることにしたのだ。
同日に試験を受けるロサーリアとエレナはすでに何回もその教官からレッスンを受けていた。午前中に彼女たちに会い「どんな人?」と聞くと「若いエンツォと違って教え方もうまいけど、レッスン中にお喋りもしないしね、厳しいよ」とのこと。そのコメントにおののき、エンツォにも聞いてみると「アキがさ、日本の教官はムッツリで厳しい人が多いって言っていたでしょ?ズバリそんなタイプだよ」と。え?!陽気で楽しいナポリ人にも、そんなムッツリタイプがいたのか?衝撃を受けながらも、木曜19時に教習所へ向かった。
教習所のカウンターに知らない人が座っていたので『この人が?』と思って、「ボナセーラ!」と挨拶してみると、返答なし・・・・・・。書類を整理してこちらを向こうともしない。初対面から、確かに、相当なムッツリタイプであった。待合い席にいたロサーリアとエレナに耳打ちで『こいつがそうなの?』『そうそう!』『挨拶もしてくれなかったけど?』『そういういけ好かないヤツなのよ!』と、こっそりとお喋りを開始した。その日のレッスンにはもう1人来ることになっていた。学科試験が口頭だった、あのイタリア語の話せない中卒シニョーラである。厳しい教官の時は誰も遅刻せずに来るようで、一番遅く来たシニョーラだって約束の19時数分前にはやって来た。そして全員が揃うと、ようやく教官が顔を上げ「行くか」と声を発した。
エンツォの時には誰が先か指示してくれたのだが、この教官はそんなことはしない。そこで、一番経験の長いエレナが一番先に行こうとしたのだが、急に中卒シニョーラのマリアが「今日は私が一番になるわ!」と先陣を切って運転席に乗り込んだ。そして、そこから悲劇?が始まってしまった・・・・・・。
その教官の指導は、本当にムッツリだった。エンツォなら「ほら、アキ。あそこで右に曲がってね」というところ、ムッツリ教官は「右に行け」とさえも言わない。「右!」「左!」と単語を言うだけだ。ギアチェンジも「セカンド!」「サード!」と、単語しか発さない。そして、そんな教官の単語しか車内には聞こえない・・・。いつものレッスンと正反対な雰囲気に、後方に座っていた私は横に居るエレナとロサーリアに、表情と手話(耳打ち会話でも聞こえてしまう距離なのでそれはやめた)で、『何、これ?!めっちゃ厳しい!』と訴えかけ、彼女たちも表情で『そうなのよ!いつもこんな感じよ!』と答える。
レッスンが行われる住宅街へは交通量の多い場所を通らなければならないので、一番最初と最後の生徒はただでさえ大変だ。しかも午前とは違って19時には何倍もの車が。マリアはスクーターに毎日乗っているとはいえ、車の運転は決してうまくない。そして極端な上がり性の気質のため信じられないミスをするのは毎度のことであった。この時も、いきなり夜の渋滞している道に出て交差点の度に立ち往生していた。
交差点で連続エンスト、その緊張から、直進の道に来てもあたふたしていたマリアに向かって、突然ムッツリ教官が矢のような言葉を浴びせかけた。「オマエなぁ、これで本当に今週の土曜に試験受ける気かよ?」「何、してんだよっ!こんなにエンストするやつがいるかよ!!」「こんな急にサードに切り替えるなよ!オマエ、今まで何してきたんだ?」「免許取ったらな、ほら。あれ。オートマだよ。オマエにピッタリなのはオートマ。あれならオマエでも運転できるから、亭主にさっさと買ってもらえよな!」と暴言は止まらない。そして、マリアは運転しながら、泣き出してしまったのだ。
その時にはすでにレッスン場所の住宅街に来ており、ムッツリ教官が泣いてるマリアをほったらかして「はい、次」と指示し、そこでエレナがすぐさまに運転席に。「こんなことでいちいち泣かれちゃたまったもんじゃないよな」と言う教官に、エレナは「彼女はとっても緊張してたんですよ。だから今日も私が一番最初に運転しようと思ってたけど、でもこんなことになっちゃって・・・」とフォローしていたのが救いだった。エレナの時は普通にレッスンは進んだが、車内には教官の『単語』とマリアのすすり泣きが響いている・・・・・・。隣に座るロサーリアに、『お願いだから次は私にして!一番最後だと渋滞通る確率も高いし、私自信ないし!ロサーリアならあの道でもへっちゃらだから次は私にしてね!』と必死の形相で頼んだ。そして18才のロサーリアは、『アキ、もちろんだよ。落ち着いてね!!』と優しく答えてくれた。
エレナのレッスンが終わり、教官が「次!」と、また単語のみで命令をして、私はエレナと片手を合わせてタッチして運転席に座った。マリアほどじゃないが、私も極度の緊張感が・・・・・・。私へのレッスンは初めてなので、ムッツリ教官は「何回レッスンを受けたのか?」と、まともな質問をした。「ええと、15回はしてるかな。でも20回はいってませんね」とミラーなどを調節しながら落ち着いて答えたが、内心は『う、このレッスン、一体どうなるんだよう??』と手が震えていたのを隠せなかった。
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アキ・ダモーレ
主婦・グラフィックデザイナー
東京出身。1991年よりイタリア在住。ナポリをこよなく愛し、人口4万のナポリ郊外の町に、ナポレターノの夫とハーフの息子と共に暮らす。イタリア生活紹介サイト「io」はほぼ毎日更新!
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